大判例

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大阪地方裁判所 昭和26年(レ)55号 判決

被控訴人は控訴人に対して大阪市西成区三日路町七十番地南海電鉄高架下家屋の東南角約一坪半の納屋及び同家屋の東北角約一坪の納屋を明渡すこと。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張はいずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人が控訴人に対し、昭和二十五年九月十五日被控訴人所有の大阪市西成区三日路町七十番地南海電鉄高架下家屋(以下本件家屋という)の東側半分を造作その他有姿のまま同月二十日限り譲渡引渡をなすことを約したこと、並びに、被控訴人が同家屋の東南角約一坪半及び東北角約一坪の二個の納屋(以下本件納屋という)を現在使用していることは当事者間に争がない。

控訴人は本件納屋は右契約により譲渡を受けた範囲内に属するから被控訴人は明渡義務があると主張するのに対し被控訴人はその範囲外だから明渡義務がないと主張して争つているから本件納屋が譲渡範囲に属するか否かにつき判断することとする。

凡そ納屋は主たる家屋に独立した工作物であることあり、それに附属したものであることあるも、いずれも主たる家屋の効用のために造られ、主たる家屋の存在に価値づけられているというべきであり、それが譲渡されたような場合には、特別な事情のない限り、納屋もこれに従つて移転するものである。ところで、主たる家屋が分割せられて数個の家屋として譲渡せられたような場合に、それに従属していた納屋は一体どのような影響を受けるべきかは、特約のある場合は勿論それに従うべきも、特約のない場合には一概にいうことはできないのであつて、主たる家屋の分割の態様、それと納屋との関聯、納屋の位置、状態、周囲の事情等よりして、或は分割せられた家屋の数、量等に応じて分割せられた各家屋の所有者の共有関係となることあり、或はそのうちの一個にのみ従属する場合が生じうる。そこで右の観点より本件建物と納屋とを考察するに、原審証人田中治一郎及び杉山睦三郎の各証言、右田中の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第一号証及び成立に争のない甲第二号証、原審に於ける検証の結果によると、本件家屋は、南海電鉄高架線(コンクリート造り以下陸橋という)下にあつて、訴外東方商事株式会社が訴外南海電気鉄道株式会社から賃借した陸橋の下部である高架下の十二本の鉄骨コンクリート支柱を利用して、その外側支柱と支柱の間に板壁をめぐらし、その内部を工場としていたものであつて、右高架下は東側にも西側にも、右板壁の外側に約一米七十糎の幅員の空地があり、その上部は陸橋の両側(東西)に突き出した「たれ」になつていて恰も本件家屋の廂のような役目をしており、東側は右たれ下の空地を隔てて訴外杉山睦三郎の家屋と接していたので、右空地の西側は本件家屋の東側の外壁を利用し、南及び北の空地入口に板戸を設けてその内部を板壁で南側、中央、北側に三分し、中央は訴外杉山に貸与して、南側と北側の空地部分は東側を板塀で囲つて本件納屋として右工場に従属させて使用していたものであつて、右東方商事が昭和二十五年六、七月頃営業不振のため被控訴人に右高架下の賃借権を譲渡した後は右家屋を控訴人に分譲する迄被控訴人が従前通りの使用を継続していた事実及び本件家屋は軌道の方向に沿うて、控訴人被控訴人間に東西に二戸の家屋として分割せられ、分割後の右家屋には従つてその一方にそのたれがあることとなり、そして本件納屋はいずれも控訴人側のたれを屋根代りとし、それに対応する土地を使用し、同家屋の東側の板壁をその一方に利用して、その東側のガラス窓を取入れ板囲を以て造られているから、本件納屋に物を多く入れ高く積み重ねるときは唯一の右窓がふさがれて、控訴人が譲り受けた部分の家屋は窓からの採光が全然できなくなる事実と右のたれの部分に対応する土地の使用は、もともと被控訴人(その前身の東方商事株式会社より承継)に於て南海電鉄より本件建物の土地(陸橋下の構築を含む)と共に借受けていたものであることを認めることができるから、それが構造上より見ると本件納屋は独立した工作物とは認めがたく本件家屋に附属したものと見るを相当とする。これに反する被控訴人会社代表者松尾仁助本人(第一回)の供述は措信できず、その他右認定を妨げるに足る証拠がない。従つて、本件家屋は、東西に二分せられた後は、分割譲渡の際別段の意思表示がない限り、その廂のような作用をしている控訴人側のたれ下の部分は同人の家屋に附属していると見るを相当とし、従つてその部分に対応する土地の使用もその家屋に従つて、控訴人に帰属するものと見るべきであり、殊に、前記認定の如く本件納屋は控訴人側のたれを屋根の役目に使い、その家屋の東側の板壁をその一方に利用しその窓を取入れているが如き関係ある状態を併せ考えると元来、本件納屋は本件家屋の効用の為めに作られているその附属物であるが、分割という新しい事実によつて、本件家屋西側の部分に対する従属関係が解消されて控訴人の家屋にのみ従属しそれと共に移転したものと見るべきを相当とする。

よつて右譲渡契約の際本件納屋の帰属に関し別段の合意がなされたか否かを判断するに、成立に争のない甲第一号証、原審控訴人本人(第二回)の供述及び右供述により成立を認めうる乙第二号証、同証人杉山睦三郎、同堂下芳一の各証言、原審控訴人本人(第一、二回)の供述によると、被控訴人と控訴人間に前記契約を締結するに当り、再三その下交渉がなされたが本件納屋の帰属については別に話題とならず、専ら本件建物の分割に関して協議されこれが取決めをしたものであることが認められる。これに反する当審証人堂下芳一の証言、同控訴人本人、原審被控訴会社代表者松尾仁助本人(第一、二回)の供述は措信できない。その他右認定を覆すに足る証拠がない。もつとも、原審右松尾仁助本人(第一、二回)の供述よりして、被控訴人は控訴人に対し、本件納屋を譲渡する積りがなく、引続き自己に於て使用する意思があつたことが推認できるが、その意思は黙示にもせよ表示行為があつたものとは到底認めることができず、一方控訴人に於ても、原審証人堂下芳一の証言、同控訴人本人(第一、二回)の供述よりして、同人はその契約に際し、本件建物の分割についてのみ気をとられて、本件納屋については取立てて考慮せず、その後に至り、右契約のうちに、これが含まれているかどうかについて、半信半疑の状態であつたことが推認できる。従つて当事者間に本件納屋の譲渡の有無に関しては、意思の合致があつたものと認められないこと前記認定の通りである。

以上の次第で、本件納屋は前記譲渡契約の対象である控訴人の家屋に従い、即ちその附属物として右契約によりその部分の高架下の賃借権と共に控訴人に移転しているものと見るべきであるから控訴人が被控訴人に対する本件納屋の引渡の請求を認めるべきであつたのに、この点看過して棄却した原判決は失当であるので、これを取消すこととし、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 乾久治 前田覚郎 福井秀夫)

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